第四食

04正体


全身から酸素が抜けるような。

 

 

 

 

 

苦しい。

 

ナンダ、俺は何を食った。

 

グツグツと煮えるソレを直視出来なかった。

 

「なんだ、これ」

 

「この人黄色は苦手なの!」

 

叫びそうになった俺の口を京子は塞いだ

 

「そうだったのか、早く行ってくれよ、京子。すまない、今度は白人を用意するよ」

 

「すみません、ちょっと

 

やっとの事で言葉を発すると、京子が俺の背中を撫でた。

 

「私がお手洗いに連れて行きます」

 

「ああ、頼む京子」

 

心配そうに美島父が言った。

 

俺の視線は美島妹に移る。

 

満面の笑みでソレに食らいついていた。

 

 

 

 

 

洗面台にしがみつき、声も出せず、唇が震える。

 

「知られたくなかった。私の家族は人食主義なの」

 

「人食ってううっ

 

俺の腹の中が空っぽになるまで、彼女は申し訳なさそうな顔をし

 

ただ「ごめんね」と言い続けた。

 

鏡をみる。酷い顔だ。

 

「状況がわからない」

 

「そうよね」

 

「生まれた時からそうだったから、それが普通だと思っていた。

 

強い人が弱い人を食べる。

 

それを共食いだとも思わなかったし、人の肉はその、お美味しかったの」

 

「麻痺してたの」

 

俺は頭を抱えた。

 

わけがわからない。

 

「美島家だけじゃない、世界のありとあらゆる貴族たちにカニバリズムはいるの」

 

「俺はどうなる」

 

「アキラは。

 

お父さんたちはアキラ家ことを同じカニバリズムの家だと思い込んでいる、っていうか私が言ったの。

 

だから大丈夫だと思う」

 

「そんな無茶苦茶な!」

 

「でももし、違うことがばれたら」

 

「ばれたらなんだよ」

 

「あ、あの

 

ここで言葉を詰まらせた。

 

「ああ、もういいよ」

 

「でも

 

「いいって。で、お前は食べるのやめたんだろ?」

 

「うん、なんで分かったの?」

 

「そりゃ俺がこうして生きていることが証拠だし、さっきも料理に手をつける気配が無かった」

 

「ううんそうなの! だからといって今までのことが許されるわけじゃないけど」

 

みんな普通の人だった。お姉さんも妹さんも使用人さんも、両親も

 

本当に怖いのは殺人鬼よりも自分が殺人鬼だと自覚していないもの。ということか。

 

「私もう嫌だこれでもうアキラと一緒にいられない」

 

 

 

俺がカニバリズムであるという嘘はいずれバレる。

 

「アキラ、逃げよう」

 

「でもどうやって」

 

「私が、なんとかする。そのあとは私のことは忘れて。ごめんなさい」

 

「そんな、できるわけない。」

 

おもわず京子の華奢な肩を掴んだ。

 

「それしかないの」

 

揺らすと壊れてしまいそうだ。

 

京子が目を逸らす。

 

「一緒に逃げよう」

 

「アキラ

 

京子の手を掴み、ドアを開ける。

 

「さようなら」

 

扉を出た瞬間頭部に激痛がはしる。

 

 

 

この声は、美島ユリエ。

 

 

 

冷たい。

 

殺風景な窓のないコンクリート。

 

洞窟のように暗い。

 

俺は、横たわっている。